能ある狼は牙を隠す
空理空論
日曜日の昼下がり。街中は、やはり人で溢れかえっていた。
改札から出て周りを見渡す。
もう待ち合わせ場所に着いているといった旨のメッセージを先程受け取ったから、恐らく近くにいるはずだ。
「あ、羊! こっちこっち!」
雑踏の中、私を呼ぶ声が聞こえた。
ようやくその姿を視界に捉え、迷いなく駆け寄る。
「ごめんカナちゃん、お待たせ!」
「大丈夫大丈夫。じゃあ行こっかー」
彼女の言葉に頷いて、隣に並んだ。
カナちゃんと二人で遊びに来た――というわけではなく、今日はクラスの打ち上げの日。学級委員の二人が幹事で取り仕切ってくれるらしく、みんなの希望通り焼肉を食べに行くことになった。
「焼肉久しぶりだから楽しみだなあ、いっぱい食べたくて今日はゆるゆるのスカート履いてきたもん」
自身のウエスト部分を指しながら、カナちゃんが笑う。
私もそれに同調して、顔を前に向けた時だった。
「羊、待って」
「ん?」
突然肩を掴まれて面食らう。
カナちゃんはこちらをじっと見つめ、僅かに眉をしかめた。そして鞄を漁ると、「あった」と呟いてため息をつく。
「え? 私、どこか怪我してた?」