能ある狼は牙を隠す
ぽろっと、零してしまった。
自分でも「言ったっけ?」と疑うほど自然に口に出していて、かち合った視線に戸惑う。
「……あっ、えっと……」
急に恥ずかしくなって、一歩後ずさった。
すると、狼谷くんはその一歩を詰めてくる。
彼の右手が伸びてきて、反射的に目を瞑った。
「粉、ついてる」
そんな言葉と共に頭を軽く撫でられて、首をすくめる。
狼谷くんは腰を落として私の顔を覗き込むと、少し寂しそうに言った。
「ごめん。……俺のこと、怖い?」
再び合った視線に、息を呑む。
「何もしないよ。もう、あんなこと言わない」
そう付け足して、彼はぽんぽん、と私の頭をたたいた。
手の平が温かくて、思わず目を細める。
「羊ちゃんは、大事な友達だから」
心のこもった言葉だった。誠実で、嘘偽りのない清廉な空気。
「――ちょっと、どういうこと?」
その場に緊張の色を落としたのは、女の子の刺々しい声だった。
狼谷くんと二人で振り返ると、開けっ放しのドアのところで、腕を組んでいる女の子が数名。
「何で玄まで一緒にいんの? 話と違うんですけど。ねえ、田沼」