能ある狼は牙を隠す
消えたら、とは。
とりあえず狼谷くんに報告しなければいけないらしい。基準が分からないと教えようがないんだけれど。
「えっと、これって怪我? じゃないの?」
何だかずっとぼやぼやしていて掴めない。彼と決定的に論点がずれているような気がする。
「今日カナちゃんに絆創膏貼ってもらって……あ、でもちょっと痛かったから、やっぱり傷だったのかな」
それにしては彼の様子が大分おかしい。
私が言った途端、狼谷くんは目を見張って、それから安堵したように息を吐いた。
「ああ、なんだ……西本か。そっか、羊ちゃんが自分で貼ったんじゃなかったんだ」
「え? うん……私全然気付かなくて」
「あー……焦った……そっか、良かった……」
すっかりいつもの柔らかい声と表情に戻った彼に、私もほっとする。
さっきまで唇を寄せていたところを指でつつき、狼谷くんが微笑んだ。
「これはね、俺のだよって印。だからずっとつけてなきゃだめ。消えたらまたつけるんだよ」
「そ、そっか」
だから今週も、その前も。狼谷くんはあんなことをしていたんだ。
疑問に思ったことを一つ、聞いてみることにする。
「狼谷くん、あの……消える時って分かるものなの?」