能ある狼は牙を隠す
出会った頃からずっとそう。
羊ちゃんだけは俺を軽蔑しなかった。何の縛りもなくフラットに笑いかけてくれて、俺よりも俺自身を大切にしてくれた。俺に本当の愛情を教えてくれた。
誰も俺のことなんて見ていない。近づいてくるのは外見がいいから。気持ちよくなりたいから。
そんなことは分かっていると割り切って過ごす方が楽だから、見て見ぬふりをして。
でも、本当はずっと、愛されたかった。
それは物凄く自分本位で幼稚な願いだと、彼女を見て思ったのだ。
『狼谷くんはもっと自分のこと大切にして!』
彼女は怒った。今まで散々怒鳴られてきたはずだったのに、羊ちゃんは他の女の子たちの言い分とはまるで違う。
恋人にしてくれないからでもなく、弄ばれたからでもなく。ただ純粋に、俺のことを見て叱ったのだ。
自分で愛することをないがしろにして、他人任せにしていた俺を。与えられるのを待っていただけの俺を。
その時の俺は、殴られまくって頬は腫れあがり、きっととてもみっともなかっただろう。唯一人に褒められるその顔さえ醜くなって、ぼろぼろでかっこ悪い。
それなのに、羊ちゃんは。俺を世界一素敵だと言った。
ねえ羊ちゃん、俺のこと一回もかっこいいだなんて言ってくれなかったね。ましてや可愛いだなんて、時折笑うんだ。外見なんて目もくれずに、クズな俺を優しいって。
そんなのもう、狡いよ。