能ある狼は牙を隠す
やばい、やばいやばい本当にやばい――。
勝手が分からないのだろう。控えめに吸い付いた彼女の唇が、何とももどかしくてくすぐったい。
瞼を閉じたせいでよりダイレクトに感覚が伝わってきて、これは駄目だとすぐに目を開けた。
「狼谷くん……これ、どうしたらいい……?」
視界に飛び込んできたのは、泣きそうな顔をして上目遣いに教えを乞う彼女。
どっ、と心臓が忙しなく動き出して、馬鹿みたいに興奮した。
深々と息を吸っては吐いて。暴れ狂う本能を何とか押さえつけながら、俺は喉から声を絞り出す。
「ん、いいよ。もっかい吸って……もっと強くていいから」
「痛くない……?」
「うん、痛くてもいいよ」
彼女で満たされたい。それがたとえ痛覚でも、彼女でいっぱいにして欲しい。というか今はむしろ、優しくされた方が生殺しだ。
羊ちゃんは再び目を伏せて、俺の首筋に唇を寄せる。
「そのまま……そう、もっと吸っていいよ。何回か繰り返して……」
彼女の頭を撫でながら助言を送ると、羊ちゃんは言われた通りさっきよりもきつく吸い上げた。どこか謙虚なその仕草に、自分の中の雄が疼く。
「噛んでもいいから……痛くても何でもいいから、羊ちゃんのだって、俺にちゃんと刻んで……」