能ある狼は牙を隠す
目が、覚めた。
重たい瞼を上げれば、手から滑り落ちたスマホが枕元に転がっている。
いつの間にか寝ていたらしい。慌てて体を起こすと、カーテンの隙間からは明るい光が漏れていた。
『いま何時……』
九時。――まずい!
飛び起きて、とりあえず洗面所へ向かおうと階段を駆け下りる。
どんなに急いでも準備に一時間はかかるだろう。せっかく狼谷くんと出掛けるのに、そこで手は抜きたくない。
待ち合わせ場所へ向かうまでは大体一時間。そう考えると、CDを買いに行く時間は取れそうになかった。
そして結局、バス停まで全力疾走し、現在に至る。
何にせよ間に合いそうで良かった、と心底安心した。初めてのデートなのに遅刻は流石に笑えない。
バスから降りてすぐ。駅前の広場で待ち合わせ、といった昨日の狼谷くんとのやり取りを脳内で反芻しながら、私は休日の街並みを見渡した。
滑らせていた視線が止まる。
賑わう空間。綺麗なシルエットを見つけて、しばらく見入ってしまった。
「あ、羊ちゃん。おはよう」
突っ立っていた私に、つと目線を寄越した狼谷くんが笑う。
我に返って背筋を伸ばした。
「あっ、おはよう……! ごめんね、待たせちゃって」
「んーん、全然」