能ある狼は牙を隠す
そう言い切ると、田沼さんは顔を上げて、眼鏡の奥の瞳を大きくした。
「い、いやあー、実は? うちらが田沼にお願いしたんだよね! ちょっとお節介かもだけど、いいきっかけになるんじゃない? って!」
「そ、そうそう! ね、上手くいって良かったよね〜……」
傍らにいた女の子たちが、口々にそう言い始める。
私は「へえ、そうだったんだ」と返して背筋を伸ばした。
「でも、そういうのは直接確認してもらってからの方が嬉しいな」
「あ〜……次から気を付けるわ……」
「うん、お願いね」
そそくさと背中を向けていく女の子たちを見送って、田沼さんと顔を見合わせる。
「つ、白さん……ごめんなさい……」
「えっ、田沼さんが謝ることじゃないよ! なんかごめんね、色々巻き込んじゃったみたいで……」
望んで狼谷くんと同じ委員会に入ったわけじゃないけれど、やっかみを買うのは不可抗力なのかなと思っていたから。
頭を下げる彼女の肩を叩いて、私は呼びかけた。
「サエコちゃん」
「え――?」
「せっかく同じクラスなんだから、他人行儀なのやめよう? 私のことは羊でいいよ」
ありがとう、と泣き出しそうな声の彼女に、私は不謹慎だけど少しだけ吹き出してしまった。