能ある狼は牙を隠す
眉目秀麗
暖色系のライトが目に優しい。
上映後の、少し慌ただしい空気が結構好きだ。非日常から日常へ戻る瞬間。お手軽に時空を超えた気分になれる。
「羊ちゃんがアクション映画好きなのはかなり意外だったなあ」
隣を歩きながらそう零した狼谷くんに、私は「そう?」と笑いかけた。
CGごりごりの海外映画も嫌いじゃない。自分の運動神経が良くない分、主人公が動き回っているのを見るとスカッとする。
恋愛映画も好きだけれど、男の子と観るのはちょっと照れくさい。男女で感性も違うから、その後に気まずくなりそうで。
映画館のフロアを降りたところで、CDショップを通り過ぎた。その瞬間、私は今の今まで忘れていた存在を思い出す。
――そうだ! 買うんだった!
狼谷くんといる時間が楽しくて、危うくこのまま帰ってしまうところだった。カナちゃんに本気の叱責を食らってしまう。
でも、今はデート中なわけで。個人的な買い物は一人の時の方がいいよね?
「羊ちゃん?」
歩幅が狭くなった私を、狼谷くんが振り返る。
「あ、ごめんね。何でもないよ」