能ある狼は牙を隠す
苦笑混じりに伝えると、狼谷くんは「じゃあ俺も付き合うよ」と言い放った。
その言葉に固まった私に、彼の視線が不思議そうに揺れる。
「……何かまずい感じだった?」
「あ、いや、」
別にやましくはない。
ただ何となく、オタクな自分を見られることに一抹の不安がよぎっただけで。
「じゃあ、えっと……お願いします」
ぎこちなく頭を下げてから、さっきまで自分たちがいた建物を指さした。
「あの、CDショップに行きたいんだけど……いいかな」
「ああ、うん。いいよ」
あれ、何だろう。やましいことはない、そのはずだったのに。
彼氏という存在の前で男性アイドルのものを買いに行くという行為が、何となく気が引けるような。
いや、ただ好きな物を買うだけだ。うん。
変な汗をかき始めたところで、目的の場所に辿り着いた。
それまで黙って隣にいた狼谷くんも、お店に入ってからはさりげなく距離を取ってくれて。本当に出来た人だな、と思った。
急ぎ足で会計まで済ませ、入口付近にいた彼に声を掛ける。
「狼谷くん、ごめんね。お待たせ」