能ある狼は牙を隠す
目的を達成した充足感と安心感で、意図せず顔が緩んだ。
狼谷くんはそんな私を視界に入れると、控えめに問う。
「何のCD? って、聞いてもいい?」
「あ、……ええと、」
隠す必要もないか。いずれバレそうだ。
たったいま購入したばかりのそれを袋から出し、彼の前に掲げる。
「『sheep&sheep』っていうアイドルグループだよ。最近すごく人気でね、テレビも引っ張りだこ」
「ああ、聞いたことあるよ」
「ほんと? 特にこの唯斗くんがね、ダンスきれきれでかっこよくて。でも可愛い顔してるよね。ギャップ萌えっていうか、すごくいいなあって」
ここまで一息。酸素を取り込んでから、やってしまった、と頭を抱えたくなった。
私の畳み掛けるような口調に、狼谷くんは案の定黙り込む。
「あ、えっと……ごめんね、一方的に話しちゃって……」
特に興味のないことをつらつらと語られるのは退屈だろう。ましてやデートなのに。
そういう対象ではないといえども、彼氏の前で他の異性のことを熱弁するのはきっと良くない。
恐る恐る狼谷くんの顔を窺うと、彼は私の持っているCDを凝視していた。
「唯斗っていうのは、この人?」