能ある狼は牙を隠す


存外穏やかな声色に、ほっと胸を撫で下ろす。
指をさして質問を投げてくる狼谷くんに、私は頷いた。


「うん、この真ん中の人だよ」


センターでにっこり笑う金髪の彼。愛嬌のある垂れ目が可愛らしい。

意外にも興味を持ったのか、狼谷くんは数秒観察した後、ぽつりと呟いた。


「金髪は校則がな……」

「え?」

「岬の髪色で割とギリギリらしいし。あれ以上明るいのは厳しいか……」


思案顔で首を捻る彼に、私は尋ねる。


「狼谷くん、髪染めるの?」


察するに、そういうことだろう。
唯斗くんを見て金髪に惹かれたんだろうか。でも、せっかく綺麗な黒髪なのにもったいない。

彼の頭髪を見上げていると、狼谷くんが至極当然のように言った。


「だって、羊ちゃんの好きなタイプってこういう人なんでしょ?」

「……ん?」

「髪は染めればいいけど、顔はな……整形するしかないし」

「え、えっと、ちょっと待って」


狼谷くんがまたとんでもないことを口走り出している。
慌てて手を振り、急いた気持ちのまま彼を諭す。


「私が好きなのは狼谷くんだよ? 好きなタイプというか、これはアイドルとして好きってことで……」

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