能ある狼は牙を隠す
確かに唯斗くんはかっこいいなと思うけれど、それとこれとは別だ。金髪の人がいいというわけでも、可愛らしい顔立ちの人がいいというわけでもない。
「うん。でもこれからずっと一緒にいるんだし、どうせだったら羊ちゃんの好きな外見の方がいいよね?」
「いやいや……! そんなことしなくても大丈夫だよ! 狼谷くんはそのままでいいと思う!」
まるで私が間違っているかのような錯覚に陥ってしまう。狼谷くんが不思議そうに、そうするのが当たり前かのように、淡々と述べるから。
「気持ちは嬉しいけど、でも申し訳ないよ。狼谷くんの髪は狼谷くんのなんだから、好きな色にしよう? 私に合わせなくたって、私はそのままの狼谷くんが好きだよ」
彼はいつも私の好きなものを優先する。
今日だってそう。今までもそう。大切にされているのは痛いほど伝わってくる。
やり過ぎじゃない? って、たまに思うくらいに。狼谷くんはいつだって、私のことばっかりだ。
「ね? 帰ろう、狼谷くん」
彼の袖を引く。
正直、カップルの常識も決まり事も分からなくて。
それでもたった一つ、私は狼谷くんを好きで、大切にしたいということだけは確かだった。