能ある狼は牙を隠す
九栗さんと二人で顔を見合わせる。
確かに、と思ったのは、太陽の色の件はもちろん、お互いの呼び名についてだ。
彼女とは球技大会の時から仲良くしてもらっているけれど、何となく今の呼び方で定着してしまっている。
学級委員で、バレー部の次期部長らしい彼女。たまに自分と比較してしまって、引け目を感じることがある。だからこそ、あと一歩踏み出せずにいたのかもしれない。
「……白さん、私の名前知ってる?」
九栗さんが不安そうに自身の顔を指さした。
私は慌ててぶんぶんと大げさに首を振って肯定する。
「あ、当たり前だよ! ただ、その……勇気が出なくて」
タイミングを逃し続けたとも言う。
俯きながら語尾を弱めた私に、九栗さんは「そっかあ」と安堵したように呟いた。
「私も! 白さん、ずっと名前呼んでくれないから、私も呼ばない方がいいのかなあって思ってた」
「え! ごめんね、全然そんなつもりなくて……!」
ううん、と目の前の彼女が肩を揺らす。
「これからもよろしくね。……羊」
「朱南ちゃん~~~!」
石畳の道。落ち着いた街並みに似つかわしくない、私の情けない声。
ほら、本場の抹茶アイス食べに行くんでしょ。カナちゃんがそう言って、慰めるように私の背中をたたいた。