能ある狼は牙を隠す
飲み物を買ってくる、と先ほど部屋を出て行った朱南ちゃんはまだ戻って来ない。
頬杖をつくあかりちゃんと、荷物の整理をするカナちゃん。私は二人の顔を交互に見ながら、恐る恐る切り出した。
「普通のカップルって、いつ頃キス……するものなのかな」
いつかするんだろうな、という漠然とした考えはある。
ただ狼谷くんは一切そのことについて匂わせないし、したい、とも聞いたことがない。
「え~……それは個人差あるから、何とも」
「別に羊がそこまで気にしなくてもいいんじゃない。狼谷くんに任せていいと思うよ」
返ってきたのは意外にも曖昧な言葉たちで、私は更に頭を悩ませることになった。
と、キャリーバッグから私の顔へ視線を移したカナちゃんが、投げかけてくる。
「羊はどうしたいの?」
「え?」
「結局、そこの問題なんじゃない? こうするべきとか、これが正解とか、そんなのない気がする」
私は、どうしたいか。
狼谷くんは言葉でも態度でも、全身で好きと伝えてくれる。私はそれの三分の一も返せていないと思うし、それが彼を時々寂しそうに見せる原因なのかもしれない、とも考えていた。
「私は……」