能ある狼は牙を隠す


いいのかな、こんなんで。だめに決まってる。
ついこの前、彼のことも不安にさせないようにしようって思ったばかりなのに。


「ごめん……ごめんね、狼谷くん……」


彼の袖を握る。


「好き。狼谷くんが大好きだよ。全然、平気なわけじゃない」


だって私、みんなといる時も狼谷くんのこと考えてたよ。

ポケットに手を入れて中を探る。目的のものを見つけて、彼に差し出した。


「……これね、狼谷くんにどうかなって、買っちゃった」


観光スポットを巡っている最中、縁結びの神社を通りすがって、その場のノリでみんなで立ち寄った。
そこで売っていた、小さいオレンジの石を埋め込んだピアス。恋愛成就はピンクの石だったけれど、自分たちの気持ちはそこに頼りたくないなと思った。


「健康祈願の石なんだって。狼谷くんオレンジ好きって言ってたし、その……」


つい焦って渡してしまったけれど、今更ながら躊躇してしまう。
彼は出会ってからずっと同じピアスを付けているし、それが気に入っているのだろう。決してセンスがいいとは言えない私が、勝手に選んで良かったものか。

二の句が継げず黙り込んだ私に、狼谷くんが目を見開く。


「……これ、羊ちゃんが? 俺に?」

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