能ある狼は牙を隠す
虚を突かれたように問いかけてくる彼。
狼谷くんはそういう人だった。強請ってくる癖に、いざ私が応えると途端に弱気になる。
でも、そういうところが愛おしい。
「うん。私、いつも狼谷くんにしてもらってばっかりだから……あの、でもデザイン好きじゃないとかだったら無理しないで、」
「つける。これから毎日つける。羊ちゃん、今ここでつけて……」
食い気味に受け取った狼谷くんに、私は「え」と腰を引いた。
「わ、私がつけても大丈夫なの? ピアスってどうしたらいい……?」
よく分からないけれど、穴が開いているなら痛そう。渋っていると、狼谷くんが手取り足取り教えてくれた。
耳朶に収まっている橙色。銀のピアスに見慣れているから、やっぱり新鮮だった。
「今更だけど、これ校則大丈夫かな……?」
「大丈夫。大丈夫じゃなくても大丈夫にする」
それってどうなんだろう……。
ピアスに関しての規則は自分に関係ないと思って詳細まで把握していないから、何とも言えない。
「羊ちゃん、ありがとう」
空いていた距離がゼロになる。
きつく抱き締められて、彼の気持ちが伝染するようだった。
「狼谷くん」
「うん?」
「許してくれる?」