能ある狼は牙を隠す
頷きながら九栗さんが指先でくるくるとバレーボールを回す。
器用だなあ、と見入っていると、カナちゃんが声を上げた。
「あ、ごめん! 私もう帰らなきゃ」
今日弟の誕生日なんだよね、と補足して手を合わせる彼女。
そういえば前に弟がいるって聞いた気がする。
カナちゃんが帰った代わりに、散々サッカーを満喫したあかりちゃんが戻ってきて、練習が再開した。
必死にボールに食らいついていたらいつの間にか空がほんのりと暗くなっていて、お終いにしようか、と腕をさすったのは九栗さんだった。
それを見て、自分の腕もじんじんと痛むのを思い出す。
バレーをやったあと特有の青あざができていた。
「お疲れ様!」
「うん、今日はありがとう!」
九栗さんはすぐそこにとめてあった自転車に乗って、手を振りながら漕いで行った。
「羊はバスだっけ?」
「うん、そうだよ。あかりちゃんは自転車?」
「そー」
手に持っている鍵を掲げて、あかりちゃんが気の抜けた返事をする。
「じゃあまた明日ね、夜道気を付けて!」
「あはは、バス停すぐそこだから大丈夫。じゃあね」