能ある狼は牙を隠す
それが当時は非常に堪えた。
ガラスのハートを粉々に砕かれ、軽く半年は引き摺った。
陰気臭い自分とおさらばしたくて、高校入学と同時に髪を明るくして。ピアスもばちばちに開けて、制服も着崩して。
経験がない自分が、男として価値がないと突きつけられている。
玄の真似をして女の子と遊ぶようになった。それが今までずるずるだらだらと続いていて、最早抜け出し方が分からない。
キスなんて。それ以上も、何もかも。
彼女以外の女の子といくらでも済ませてしまった。
「そっか。……あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
苦々しい記憶を思い出して後悔した。
現実に引き戻されたのは西本さんの声で、俺は我に返る。
「カップルって、どれくらいでキスするのが普通なの?」
「えっ?」
気の抜けた返事をしてしまった。
いやだって、そんなのはネットで調べたらいくらでも出てくるもんじゃないの?
「さっき、羊にそうやって聞かれてさ。でも私、経験ないから誤魔化して答えちゃったんだよね。だから有識者の津山くんに聞いてみようかなと思ったんだけど」