能ある狼は牙を隠す
フォローする気ある? それ。
小さくぼやいた俺に、西本さんは軽く受け流してから問い直す。
「ね、結局どうなの? 付き合ってからどれくらいでするの?」
まだ聞くの? メンタル鋼すぎない?
賢いんだか天然なんだか、未だに掴みきれない。
「……や、まあ、ほんとに好きなら期間とか関係なくね?」
諸説あり、だけどさ。したくなったらするだろうし、大事にしたいならすればいい。
柄にもないことを言っている自覚はあった。散々女の子と遊んでおいて、全く説得力のない言葉だ。
「そっか」
西本さんは安心したように、短く零した。良かったあ、と息を吐いて頬を染める。
「私、『羊がどうしたいかじゃない?』って偉そうに言っちゃったんだけど、正解だったみたいで良かった」
納得したように何度か頷き、彼女はそれから「ありがとう」と俺を見上げた。
「引き止めてごめんね! おやすみ」
踵を返した背中。咄嗟にその腕を掴む。
振り返った彼女の瞳に、俺が映った。
「あの、さ」
「うん」
「……他の男には、そういうこと聞かない方がいいよ」
それは単なる事実だったかもしれないし、はたまた私情だったかもしれない。
「あはは。そうだね、気を付ける」
なんてことないように笑い飛ばした彼女には、きっと微塵も伝わってないんだろうけど。