能ある狼は牙を隠す
これ幸い、と差し出すあかりちゃんに、津山くんが苦笑交じりで断りを入れる。
そんな様子を傍観していると、制服の袖を引っ張られた。視線を後ろ上方に向ける。
……あ、
「玄くん、可愛いの着てるねえ」
彼が着ているのは、津山くんと色違いのパーカーだった。比較的落ち着いた色の服を身に纏っていることが多いから、真っ青でポップなキャラクターものを着ているのはかなり新鮮だ。
「……岬に無理やり買わされた」
「ふふ、似合ってるよ」
いじけたように口を尖らせる彼が幼い。
くすくす肩を揺らしていると、ほっぺを軽くつままれた。
「こーら。そんな顔で笑わないの」
「えっ」
「羊ちゃんの可愛い顔見るのは、俺だけでいい」
不意打ちの攻撃に、なすすべもなく赤面してしまう。
玄くんは固まる私の手を取ると、いつものように――ではなく、しっかり指を絡めてきた。
「えっ⁉ 玄くん、あの、手……!」
「ん?」
ん? じゃなくて! これ、恋人繋ぎってやつなのでは……!
今まで何度も手は繋いだけれど、こんなにちゃんと握ったのは初めてというか。
「ああ……結構人多いしね。はぐれたら困るから」