能ある狼は牙を隠す
「思ったより空いてるね」
「ね、すぐ乗れそう」
少し歩いてやって来たのは、水上ボートでコースを一周するアトラクションだ。
玄くんもこれには乗っていないと聞いて、それなら二人で、と列に並ぶことにした。
「あ、これ途中で水飛んでくるやつだって。大丈夫そう?」
「うん、大丈夫。昼間のショーでもちょっと水被っちゃったし」
若干スカートが湿ったけれど、他を回っているうちに乾いたし問題ない。
レインコートをすぐ側で販売しているのはさっき見かけた。こういうところで買うと結構高いんだよなあ、と経済的な面で分析してしまう。
「次の方、こちらへどうぞ! 足元お気を付け下さい」
係員の人の指示に倣って、玄くんと隣の席に乗り込む。夜の川面は雰囲気があってやはり不気味だった。
「安全バーは下ろしましたか? それでは~出発進行~!」
ざざ、と乗客を乗せた巨体が動き出す。
コースの両脇に設置されたリアルな恐竜の造物に見入っていると、ボートは洞窟の中に侵入していった。
「結構暗いね……!」
「ね。羊ちゃん暗いの苦手?」
「暗いところっていうか、閉所恐怖症です……」