能ある狼は牙を隠す
恐竜の鳴き声が鼓膜を震わせる。
それに気を取られていると、突然ボートが下りだした。体が風を切っていくのが分かる。
「うわっ」
下っていく途中、洞窟を抜けた瞬間に、盛大に水しぶきがあがった。頭から思い切り被ってしまって、想像以上の威力に目を瞬く。
「あははっ、すっごいびしょびしょ! こんな濡れるんだね」
テーマパークって感じがする!
玄くんも少しは慌てたり焦ったりしただろうか、と期待を込めて隣に笑いかけた。
しかし彼の表情は、何とも意外なもので。
ただ私を凝視して、それも目を見開いて固まっていた。
「玄くん? どうし――」
「おかえりなさ~い、お疲れ様でした~!」
コースの終わりを告げられて、前に向き直る。
乗り込んだ時と同様、段差に気を付けながらボートを降りた時だった。
後ろから何かに包まれるような感覚がして、視界に青色が飛び込んでくる。
「……羊ちゃん、これ着て」
小さく促された。
半ば強引に玄くんの着ていたパーカーを羽織らされ、チャックを上まで閉められる。
「行こ」
「えっ、」