能ある狼は牙を隠す
足早に進んでいく彼に連れられるがまま、アトラクションを離れた。
しばらく歩いた後、道の端で歩を緩めた玄くんが頭を振る。彼の髪から水が滴って、地面に落ちた。
「あ、玄くん、やっぱりこれ着た方がいいよ! すごい濡れてるし風邪引いちゃう……」
夜になるとかなり気温が下がってくるし、ワイシャツ一枚の彼は寒そうだ。
チャックを下ろそうとした私の手を掴んで、玄くんが首を振る。
「いいから着てて。羊ちゃんこそ風邪引くよ」
またそうやって。自分よりも私のことばっかりだ。
嬉しいよ。大切にしてくれるのは、大事にしてくれるのは嬉しい。でも私だって玄くんのこと、大事にしたいんだよ。
我儘を言って欲しい。駄々をこねて欲しい。それは嫌だ、これは嫌いって、ちゃんとぶつけて欲しい。
一人で溜め込んで我慢して、いつか私は全て彼に背負わせてしまうんじゃないか。いや、もう背負わせているんじゃないかって、不安になる。
そうやって綺麗に守られるのは、すごく寂しいよ。
「私は風邪引いたことないから、大丈夫……!」
「羊ちゃん――」