能ある狼は牙を隠す
勢い良くチャックを下ろす。
と、玄くんが弾かれたように腕を伸ばしてきて、そのまま自分の体に押し付けるように私を抱き寄せた。
「だめ。お願いだから着てて」
そう言って頑なに譲らない彼に、私はやけになって言い返す。
「何で? 私大丈夫だよ。ほんとに体丈夫だから」
「何でも。お願い、言うこと聞いて」
「雪の中遊んでても、お腹出して寝てても全然平気だったよ! 玄くんの方が繊細でしょ、体育でふらふらしてることあるよね?」
「い、今それ関係ないって……」
玄くんがたじろいだような気配がした。
いま自分が冷静さを欠いている自覚はある。普段より少し攻撃的な口調になってしまった。
でも。やっぱり、貰ってばかりは嫌だ。
「私、お姫様扱いしてもらう程か弱くない!」
ぐ、と彼の体を押す。
難しいことなんて分からないけれど、きっとこれは私の我儘なんだけれど。
私一人が嬉しいのは嫌だ。玄くんも笑ってくれないと嫌だ。付き合っているんだから、玄くんだけが頑張るんじゃなくて、二人でつくっていきたいの。
物凄く怒っているってわけではない。ちょっとだけ、むかむかしている。
どうして分かってくれないのって、子供みたいに泣いて請いたい気持ちもある。
「羊ちゃん……」