能ある狼は牙を隠す
酷く気落ちしたような声色が降ってきて、意図せず体が強ばった。
「ごめん」
違うの。ごめん、は私の方だ。
謝らせたいんじゃない。これじゃ結局私がただ喚いて迷惑をかけただけ。
彼の顔を見たくない。傷つけただろうか。もしそうだったら私は、自分で言い出した癖に泣きたくなってしまう。
「ごめん、その、」
玄くんの腕が気遣わしげに私の背中を引き寄せた。それでも離れるのは譲りたくないらしく、体を密着させると。
「…………透けてる、から。ごめん。着てて」
消え入りそうな声量でそう告げ、彼は黙り込む。
「あ、……えっ、と」
透けてる。って、何が。いや、あれしかない。
水を浴びた直後の彼の表情が思い出されて、そういうことかと腑に落ちる。
「ご、ごめん……私、あの……」
「いや……大丈夫」
私の馬鹿――――!
恥ずかしすぎる。情けなさすぎる。玄くんは気を遣って明言するのを避けてくれていたのに、それを私が言わせてしまった。
身じろいだ私に、玄くんがゆっくり体を離す。今度こそしっかり上まで閉めて、「ありがとう」と俯いたまま彼にぎこちなく伝えた。
「……そろそろ、戻ろうか」