能ある狼は牙を隠す
え? 私は幻でも見ているんだろうか?
何度か瞬きをしてみたけれど、目の前の光景が変わることはない。
いつの間にそんなに仲良くなったんだろう。
羊が「玄くん」と言う度に、狼谷くんの目尻が嬉しそうに垂れ下がる。……胃がムカムカした。
「はーい。そんじゃあ俺らは俺らで回ってくるわ、後でな」
すっかり二人だけの世界を繰り広げていた羊と狼谷くんに、津山くんが水を差す。流石、邪魔をすることに関してはプロだ。見習わないと。
二人を見送って、さてと、と津山くんが息を吐く。
「どーする? てかみんな腹は減ってる?」
「うーん、途中で軽く食べながら来たからあんまり」
「俺らもさっき散々食ったんだよね。じゃあ普通に何か乗りに行くか〜」
せっかくだからみんなで回ろう、という話になっていた。特に断る理由もなく、その提案に頷いて。
「あ! 私あれ乗りたい! さっき混んでて行けなかったやつ!」
「ああ、あれマジで楽しかったわ。俺ももう一回くらい乗りたい」
朱南と霧島くんが話しているのは、今いるエリアから程近いアトラクションだ。ホラー系のジェットコースターで、いつも人気がある。
「やっぱここ来たら乗らなきゃだよね〜。よっしゃ、行こっか!」