能ある狼は牙を隠す
こないだの優しい笑い方とも、幼いえくぼの覗かせ方とも違う。
ちょっとだけ揶揄うような意地の悪いそれに、私は口を尖らせた。
「見てないよ」
「嘘だ」
「嘘じゃないもん」
何だかよく分からないけれど、今は意地を張りたい気分だ。
「……下手くそ」
「え?」
「羊ちゃん、嘘つくの下手だね。目ぇ泳いでるよ」
指摘されると逃げ場がない。
私は「うーん」とわざとらしく仰け反って、降参することにした。
「バレちゃった?」
へへ、と私が間を持たせるためにだらしなく笑うと、狼谷くんはほんの少しだけ眉尻を下げる。
「頑張ってたね。ドリブル綺麗だなあって、目で追いかけちゃったよ」
「ドリブル?」
シュートじゃなくて? と聞こえてきそうな返事だ。
不思議そうな顔で瞬きをする彼に、私は頷く。
「離したボールが地面に跳ね返る時ね、狼谷くんの手に吸い付いて戻るように見えるの。ぽんぽん、じゃなくて、ふわふわ、っていうか」