能ある狼は牙を隠す
津山くんの反応に首を傾げる。
表情が硬い。視線がうろうろとさ迷っていて、どこか落ち着かない様子だ。
二人でお店を出る。外はすっかり日が落ちて暗く、至る所でネオンが輝いていた。
「あんまり遠くに行ったら合流するの大変になるし、この辺がいいよね」
言いつつマップを取り出そうとした腕を、突然掴まれる。
驚いて隣を見やれば、津山くんが酷く怯えた表情で真っ直ぐ前を凝視していた。
「……あー、忘れてた」
食欲の秋、読書の秋。そしてハロウィン。
ここのテーマパークでは、毎年この時期夜になるとゾンビが彷徨くという仕様になっていた。苦手な人にとっては本当に、地獄だと思う。
「津山くん、大丈夫だから。そんなに見てると逆に狙われるよ」
「えっ、」
目が合った人が襲われやすい、らしい。ゾンビに扮したスタッフも人の心がないわけではないから、本気で怖がっている人には寄ってこないだろう。
「下向いてた方がいいよ。あっち行こう」
子供向けのエリアにはゾンビは入ってこない。とりあえずそこでみんなを待てばいいか、と思い至った。
私の腕を取ったのは咄嗟の判断だったのか、津山くんはハッとした様子で手を離す。
「……ごめん」