能ある狼は牙を隠す
そんな今にも死にそうな顔で言われてもな。
ホラーゲームに迷い込んだ可哀想な参加者そのものだ。
軽く息を吐く。
彼の手を半ば強引に引いて、そのまま歩き出した。
「えっ、ま、待って西本さん」
「こんなとこ早く抜けたいでしょ? とっとと行こう」
若干へっぴり腰になっている津山くん。
余程嫌いなんだな、と観察して、ゾンビが蔓延る道を切り抜けた。
「津山くん」
言われた通り、ずっと忠実に下を向いて私についてきた彼は、未だに俯いたままだ。
「おーい、津山くん。もう顔上げて大丈夫だよ」
「あ……」
「うわ、顔色悪いね。何か飲む?」
邪魔にならないよう道の端に寄る。
周囲の景色はすっかりパステルカラーの建物ばかりで、親子連れが多い。
その中に高校生が二人いるのは浮いているけれど、緊急事態なのだ。
「ごめんね、ちょっと開けるよ」
飲み物なら自分で持っている、とのことだったので、その場でへたり込む津山くんのリュックに手を突っ込んで、ペットボトルを取り出す。
顔を上げた彼が手を伸ばしてきたのを軽く払って、私は蓋を開けてから手渡した。
「はい、どーぞ」
「……ありがと」