能ある狼は牙を隠す
まあ、冗談でもないんだけど。
津山くんはイケメンという部類には入ると思う。うちのクラスの二大イケメン、といわれるくらいに顔は整っているし、男女問わず好かれる人気者だ。
ただそれだけ、というか。タイプではない。
顔だけで言えばむしろ狼谷くんの方が好きだし、第一、女の子を取っかえ引っ変えしているプレイボーイに興味はなかった。
そう、なかったんだ。前までは。
「もう立てそう?」
彼に倣ってしゃがみ込んでいた膝を伸ばし、私は問いかける。
「あ、うん、だいぶ楽になった。さんきゅ」
「あかりたちもそろそろ終わるって」
ここに着くまではもう少しかかるだろうけど、と続けようとしたところで、津山くんの表情筋がまた固まった。
「……どうしたの?」
「あ、いや……そっか、またあっち戻んなきゃだよな」
ああ、なんだ。そっか、彼には言っていなかったっけ。
私は「大丈夫だよ」と首を振って、笑いかける。
「四人にはこっち来てもらうように連絡したから。多分ホテルもね、ゾンビいるエリア通らないで帰れる道あると思う。そっちから行こう」