能ある狼は牙を隠す


ぽんぽん、と彼の背中をたたく。
やってしまってから、気安く触らない方が良かったかなと後悔した。


「……西本さんさぁ」

「ん?」

「包容力すげえって、言われない?」

「藪から棒にどうしたの」


津山くんは今や普通に友達の一人だし、そうでなくともこんなにグロッキーになっている人を放っておかないだろう。


「いや、ほんと何から何まで……さーせん」

「どういたしまして」


まさか自分がクラスの人気者とこんな風に話す日が来るとは、夢にも思っていなかった。
というか、そもそも変に仲良くしてもやっかみを買うだけだから、あんまり気は進まないけども。

津山くんは結構周りを見ている。何にも考えてなさそうな振る舞いで輪に入っていくのに、それがきっかけで物事が進展することもあって。

でも多分、それと同じくらい人からの視線を気にしているのだと分かった。自分が周りからどう見られているのか。どんな言動を求められているのか。
それに物凄く敏感で、彼は要望に沿った答えを的確に導く。

ちょっと、窮屈そうだな。
そんな余計なお世話な考えを抱いてしまったのは、彼とよく話すようになってからだった。


「津山くんはさぁ」

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