能ある狼は牙を隠す


先程の彼の口調を真似てみる。


「もっとかっこ悪くなっても、誰も文句言わないと思うよ」

「……は、」

「人って意外と自分のことしか見てないらしいよ。他の人のことはね、次の日には忘れてるもんらしいし」


ぽかん、と僅かに口を開けて私を見上げる津山くんに、人差し指を立てた。


「だから私も、津山くんがこんな風になってるの明日には忘れてるなあ。ってね」


別に誰にも密告しないし、幻滅もしないよ。
そのプレッシャーはせめて私の前では感じなくていんじゃない? って、ちょっとだけ励ましたつもりだった。


「西本さ――」

「あ、いたー! お待たせ!」


朱南の澄んだ声が耳朶を打った。
その前に津山くんに呼ばれた気がして、「なに?」と振り返る。


「あ、いや……何でもない。ありがとう」


彼が恥ずかしそうに俯いた。
そういう反応をされると、こっちがむず痒い。さらっと流してくれて良かったのに。


「どう? 結構怖かった?」

「最高だったよー! もうめっちゃ叫んできた!」


高揚した様子で感想を語らうみんなに、ほっと胸を撫で下ろした。

その後は寄り道をしながらホテルに向かい、羊と狼谷くんの帰りを待つことにした。


「あ、戻ってきた。あれ〜、何で羊が狼谷くんのパーカー着てるの〜?」

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