能ある狼は牙を隠す
確かにシュートを決めている時はかっこいいけれど、私はドリブルをしている時の方が好きだ。
彼の几帳面なところが現れているというか、丁寧にボールを扱っている気がして、優しいドリブルに見える。
「なんていうのかな……指先まで魔法がかかったみたいだったんだ。ボールがね、やったあ! って、喜んでるみたいな」
言いたいことの三割も伝わっていないような気がする。
拙い言葉で精一杯喋ってみたけれど、何が何やらって感じだと思う。
「……うん」
狼谷くんは穏やかに相槌を打って、何かを堪えるように目を細めた。
「よく見てるね」
形のいい唇が動いて、嬉しそうに口角が上がる。
それなのに、今にも泣き出してしまいそうな色を瞳に秘めていた。
思わず惹き込まれて、誤魔化すように視線を逸らす。
「……そ、そうかな。みんな狼谷くんのこと、見てたと思うよ」
今日じゃなくたって、公園じゃなくたって。
狼谷くんはいつも憧憬や恋慕のレーザービームを浴びている。
「うん。見てるよ。……でも、多分見てないんだ」