能ある狼は牙を隠す


多分、いま会わないとだめだと思った。
時間をおいたら絶対に拗れる。推測じゃない。確信だ。


『羊はどうしたいの?』


私は玄くんに会いたい。会って話したい。ちゃんと手を取って、抱き締めて、そして。キスがしたい。

彼が分からない。気持ちは痛いほど伝わってくるのに、時折見えなくなる。
でもそれは私も同じだ。また繰り返している。待っているだけじゃなくて、ちゃんと自分から伝えに行かなきゃいけない。

どっちかが頑張るんじゃなくて、二人で。彼に願うように、私も私自身を全うするべきだ。

バスに乗り込んで数十分。いつものバス停で降りてから、玄くんの家へ走る。

インターホンを押すのに少し躊躇して、押してからもずっとどきどきしていた。


「はい、狼谷です」


聞こえてきたのは玄くんのお母さんの声だった。
意図せず背筋が伸びる。


「あの、突然すみません。白 羊です。……その、」


ここまで勢いで来ちゃったけれど、なんて言おう。
逡巡していると、向こうから清々しいトーンが飛んできた。


「あら、羊ちゃん? もしかして玄のお見舞い来てくれた?」

「あっ、はい! 押しかけてすみません……」

「わざわざありがとうね。いま行くから」

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