能ある狼は牙を隠す
久しぶりに見た玄くんのお母さんは、以前と印象が違った。
少しカジュアルな服を着ていて、長い髪が揺れる。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔します……あの、すみません、私何もお土産がなくて……」
とにかく早く行かなきゃ、と突っ走ったはいいものの、手ぶらで来てしまった。
縮こまる私に、「あはは」と快活な笑い声が上がる。
「全然気にしないで〜。こうして来てくれただけで十分。それに、」
目の前の瞳が、真っ直ぐ私を見据えた。
「すごく急いで来てくれたみたいだもんね」
その言葉と視線に、自分の身なりを確認する。
髪は触っただけでも乱れているのが分かるし、服もそこまで吟味せず選んだから、ちょっと印象が良くなかったかもしれない。
「あっ……えっと、」
「ごめんね。玄、ちょうどさっき寝たばっかりで。昨日あんまり寝れなかったみたいだから起こすの可哀想でね……」
「そう、なんですね」
そんなに熱にうなされていたんだろうか。
絶対とは言い切れないにしても、彼が体調を崩したのは私にも責任がある。
「あの、すみません……玄くんが熱出したの、私を気遣ってくれたからかも、しれなくて……」