能ある狼は牙を隠す
なぞなぞみたいな彼の言葉に、脳内ではてなマークが量産されていく。
狼谷くんはその横顔に影を宿すと、手を組んで言った。
「誰も俺のことなんか見てないよ」
小学生も中学生もいない、遊具だけが取り残された公園。
狼谷くんの声がよく響く。
道端のダンボール箱に捨てられた子犬を見かけてしまった時、こんな気持ちになるんだろうか。
きつく握られた彼の手を溶かすように、私は自分の手を重ねた。
「私が見てるよ」
彼の周りにだけ雨が降っている。
いま傘を差し出せるのは私だけで、そうしなければいけないと思った。
「……本当に?」
酷く不安そうに聞いてくる狼谷くんに、私はすっかり俯いてしまった彼の顔を覗き込む。
「うん。本当に」
ゆらゆらと彼の瞳が揺れている。
「……じゃあ、さ。羊ちゃんは、ちゃんと見てくれるの?」
真っ直ぐな視線が私を射抜いた。
まるで縋るようなそれに、体が震える。
「俺のこと、ちゃんと見て、褒めてくれるの? だめな時はだめって、叱ってくれるの?」