能ある狼は牙を隠す
*
「玄、ちゃんと『いただきます』って言わなきゃだめだぞ」
新しい父親は、母以上に口うるさかった。
朝起きたら挨拶をしろ。帰って来たら「ただいま」、出迎える時は「おかえり」。
好き嫌いはするな。宿題はその日にちゃんと終わらせろ。
小学生かよ、と内心うんざりだった。
マナーや礼儀はもちろん分かっている。必要な場面ではうまくやるし、これまでだってそうしてきた。
「分かってるって。こないだも聞いた」
「じゃあちゃんと言わないと。作ってくれた人への感謝の気持ちなんだから」
「はいはい」
感謝の気持ち、とか。目の前に母さんがいるのによく言えるわ。
母さんも母さんだ。いいよ、食べよう、なんて言うくせに、満更でもないって顔してる。
むず痒い。こうして面と向かって食事を取るのも、「おいしい」だなんて隣でへらへらと笑うこの「父親」も。
「あ、そうだ。玄、明日は寄り道しないで早く帰ってこいよ」
「何で」
「何でって」
玄の誕生日だろ。
当たり前のようにそう言ってのけた彼に、俺はしばらく声が出なかった。
「玄、ちゃんと『いただきます』って言わなきゃだめだぞ」
新しい父親は、母以上に口うるさかった。
朝起きたら挨拶をしろ。帰って来たら「ただいま」、出迎える時は「おかえり」。
好き嫌いはするな。宿題はその日にちゃんと終わらせろ。
小学生かよ、と内心うんざりだった。
マナーや礼儀はもちろん分かっている。必要な場面ではうまくやるし、これまでだってそうしてきた。
「分かってるって。こないだも聞いた」
「じゃあちゃんと言わないと。作ってくれた人への感謝の気持ちなんだから」
「はいはい」
感謝の気持ち、とか。目の前に母さんがいるのによく言えるわ。
母さんも母さんだ。いいよ、食べよう、なんて言うくせに、満更でもないって顔してる。
むず痒い。こうして面と向かって食事を取るのも、「おいしい」だなんて隣でへらへらと笑うこの「父親」も。
「あ、そうだ。玄、明日は寄り道しないで早く帰ってこいよ」
「何で」
「何でって」
玄の誕生日だろ。
当たり前のようにそう言ってのけた彼に、俺はしばらく声が出なかった。