能ある狼は牙を隠す
*
終業のチャイムが鳴る。
荷物を手早く纏めて、昨日の言いつけ通り、俺は学校を早々に後にした。
放課後遊びに行こうと誘ってくれた部活の友達もいたが、また今度、と手短に断った。
「あ、玄。おかえり〜」
リビングへ足を踏み入れた途端、普段はこの時間にいるはずもない母が俺を出迎える。早く帰るとは言っていたが、まさかこんなに早いとは思っていなかった。
「……ただいま」
「今日はね〜、玄の好きなものいっぱい作ったから。ケーキはお父さんが帰りに買ってきてくれるって」
顔だけ振り向いて上機嫌に述べる母。
キッチンに立つ後ろ姿をこんなにまじまじと見るのは、随分と久しぶりだった。
「玄、誕生日おめでとう」
夕日が差し込む空間に、控えめな声が響く。
「……今まで、まともにお祝いしてあげられなくてごめんね。いつも、一人にしてばっかりで」
ぽつり、ぽつりと母が話し出した。
その背中は、前の家を出てきた時、俺の手を引いた背中と同じとは思えないくらい小さく感じる。
「でも、これからはちゃんと家族みんなで、一緒にご飯食べようね。玄と、私と……お父さんの、三人で」
終業のチャイムが鳴る。
荷物を手早く纏めて、昨日の言いつけ通り、俺は学校を早々に後にした。
放課後遊びに行こうと誘ってくれた部活の友達もいたが、また今度、と手短に断った。
「あ、玄。おかえり〜」
リビングへ足を踏み入れた途端、普段はこの時間にいるはずもない母が俺を出迎える。早く帰るとは言っていたが、まさかこんなに早いとは思っていなかった。
「……ただいま」
「今日はね〜、玄の好きなものいっぱい作ったから。ケーキはお父さんが帰りに買ってきてくれるって」
顔だけ振り向いて上機嫌に述べる母。
キッチンに立つ後ろ姿をこんなにまじまじと見るのは、随分と久しぶりだった。
「玄、誕生日おめでとう」
夕日が差し込む空間に、控えめな声が響く。
「……今まで、まともにお祝いしてあげられなくてごめんね。いつも、一人にしてばっかりで」
ぽつり、ぽつりと母が話し出した。
その背中は、前の家を出てきた時、俺の手を引いた背中と同じとは思えないくらい小さく感じる。
「でも、これからはちゃんと家族みんなで、一緒にご飯食べようね。玄と、私と……お父さんの、三人で」