能ある狼は牙を隠す
どんな人がタイプ? と、そう聞かれて、未だにきちんと答えられる気がしない。
だって、本当に分からないんだ。どういう人が好きだとか、こういう人と付き合いたいとか、そうじゃない。
多分、私、玄くんだから好きだ。
今更こうでした、なんて種明かしをされても、簡単に嫌いになることはできない。それはきっと、これからも変わらないんだと思う。
「そう……そっか……」
呟いた彼女の声が潤む。
羊ちゃん、と香さんが私の手を優しく握った。
「どうか――玄を、よろしくね」
綺麗な雫だった。彼女の頬を伝ったそれが、誠実な人柄そのものを表しているようで。
きちんと応えたいと、強く、強く願った。
「はい。もちろんです」
握り返した体温は心地良くて、これが彼を守ってきた温度なのだと痛感する。
数秒握り合って、突然香さんが「あ〜!」と仰け反った。
「もうしんみりなの良くないね。よし、私ちょっと買い物行ってこようかな」
に、と彼女の口角が上がる。
「羊ちゃん。私が留守の間、玄のこと頼んでもいい?」
「えっ!?」
「玄の部屋はね、二階上がってすぐ右だから」