能ある狼は牙を隠す
説明を始めた香さんは、その考えを譲る気はないらしい。
一通り話して満足したのか、彼女の表情は清々しかった。
「じゃ、行ってくるね。よろしく!」
「は、はい……」
玄関で背中を見送り、ドアが閉まってから一息つく。
意外と強引なところ、ちょっと玄くんと似てるな……。
かくして、私は彼の部屋へ向かった。一応新しいタオルを持って、看病をするという体で、である。
「玄くん」
ノックをして呼び掛ける。返事はない。
やっぱり、まだ寝ているんだろうか。だとしたら寝かせてあげた方がいい気がする。
「……玄くーん」
控えめにもう一度呼んで、肩を落とした。相変わらず中から答える声はない。
私、何しに来たんだっけ。
そもそも、玄くんに会ってきちんと話をして、色々と謝りたかった。
――ううん。
「玄くん、入るよ」
私は、彼に会いたかった。ただそれだけだ。
部屋の中は以前来た時と変わらず整理整頓されていて、カーテンが閉められているからか、少し薄暗かった。
ベッドに横たわる彼の瞼は、穏やかに閉じている。ぐっすり眠っているみたいだ。
「……あれ? これって」