能ある狼は牙を隠す
そこは彼の勉強机で、シンプルな男の子らしい雰囲気の中に、一つだけ異質なものが混じっていた。
ヒツジのマスコットストラップ。見覚えがある。
これは確か、彼の誕生日にゲームセンターへ行って、偶然取れたからあげたものだ。
取っといてくれてたんだ。しかもこんな、立て掛けて丁寧に飾ってある。
「ずるいなあ……」
本当に、ずるい人だ。
いとも容易く私の心を絡めとって、溶かしてしまう。
ベッドのすぐそばまで近付いて、静かに腰を下ろす。
規則正しく呼吸を繰り返す寝顔は、随分と幼く見えた。
手を伸ばし、努めて優しく彼の額に触れる。
「好きだよ」
今まで沢山、我慢したんだね。いっぱい苦しい思いしたんだね。
労うように、熱い皮膚を撫でた。
「……羊、ちゃん?」
掠れた声が私を呼んだのは、彼の額を何往復か撫でた後だった。
焦点の定まらない瞳が揺れて、首筋には汗が見える。
「ごめんね。起こしちゃった」
タオルでそれを拭いながら、苦笑交じりに謝った。
ただ呆然とこちらを凝視する彼は、状況の理解が追いついていないらしい。
「夢……?」
ようやく口を開いたかと思えば、彼は小さく呟いた。無理もないだろう。
「あはは、夢じゃないよ。ほら、ちゃんと汗拭いて――!?」