能ある狼は牙を隠す
彼へと伸ばしていた腕を引っ張られる。
咄嗟にバランスを取ろうと手を付いた先はベッドの上で、上半身を乗り出した状態のまま、彼に覆い被さる体勢になってしまった。
「羊ちゃん、もっとこっち来て……」
「えっ、あの、玄くん!?」
腰を抱き寄せられた。
踏ん張りがきかず、完全に彼の上に馬乗りになってしまう。
「可愛い。好き。俺の……俺だけの羊ちゃん」
「わっ」
視界が反転した。
背中が柔らかい。見上げた先には、首から顔にかけてほんのりと赤い玄くんがいる。
これは……夢だと思ってるのかな。朦朧とした様子で舌っ足らずに言葉を紡ぐ彼に、意図せず心臓が跳ねた。
「羊ちゃぁん……」
酷く甘えた声。初めて聞く駄々っ子のようなそれに、激しく動揺する。
「えっ、ま、待って、玄くん……!?」
距離が! 近い!
突然近付いてきた彼の顔に、思わず声を上げた。
「羊ちゃん、好きぃ……」
「ひゃっ」
首筋に彼の舌が這う。今までと比にならないくらい熱くて、それにびっくりしてしまった。
病人相手に無下にもできないし、と逡巡していると、その唇が悪さを始める。
「あ、だめ、玄くん! こら……!」