能ある狼は牙を隠す
そうだよ。病人なんだから!
色々と立て込みすぎて途中から忘れていた。
「うん、大丈夫だから……もっと、」
「だ、だめだって!」
「俺の風邪、うつるの心配してるの? 今更だよ」
いや、そうじゃない。というか、そもそも風邪を引いたのは私のせいであって。それを謝ろうと思ったんだった。
「あの、玄くん。ごめんね。私のせいで、こんな……」
「いーよ。気にしないで。羊ちゃんとちゅーできたから、むしろ役得」
「もう……!」
軽く彼の肩を叩く。
懲りずに微笑んだ玄くんは、「ねえ」と身を乗り出した。
「羊ちゃん、さっきのがファーストキス?」
「えっ、……そ、そうだよ」
私の答えに、彼が破顔する。
「そっか。……うん、そうだよね。あー……やばい、めっちゃ嬉しい……」
噛み締めるように呟いたかと思えば、ぎゅ、と勢い良く抱き着いてきた。
「最初も最後も、全部俺とか……もう幸せでしかないんだけど……」
幸せ、と。彼の口から聞けたことが、何より嬉しかった。
玄くんは腕の拘束を解くと、向き直って私を見つめる。
「俺に、羊ちゃんの初めて全部ください」
言われなくても、そのつもりだったよ。
はい、と返事をして、彼の首に腕を回す。
不安も寂しさも、もう熱に溶けてなくなってしまったみたい。