能ある狼は牙を隠す



「帰ろっか」


委員会が終わった後の教室。
すっかり彼と触れ合うのが習慣になって、最近はキスも加わった。

涙を流したあの日以降、玄くんは今までの寂しそうな素振りが嘘みたいに、蕩けそうな、嬉しそうな笑顔を見せてくれる。彼の全身から伝わってくる好意が、私にとっても元気の源だ。


「羊ちゃん?」


俯いたまま彼の袖を引いた私に、案の定、戸惑ったような声が降ってくる。


「……玄くん、」


自分でもちょっとおかしいと思うくらい、私は彼のことが好きだ。ここ最近、特にそう思う。
だって、今まで見えていなかったものが気になり出しているんだから。


「昼休みに話してた子って、その……」


はっきり聞いてしまいたいけれど、勇気が足りない。

今日の昼休み、玄くんは教室のドアのところで、違うクラスの女の子と何やら話し込んでいた。以前は他の子といてもそこまで気に留めなかったし、そもそも付き合ってから玄くんが他の子と話す場面はほとんど見かけなかった。

彼が私のことをすごく好いてくれているのは、もちろん分かっている。
だけれど、他の子といる彼を見ると少しモヤッとしてしまったというか、その人は私の彼氏なんですと主張したくなったというか。


「……羊ちゃん」

「は、はい」

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