能ある狼は牙を隠す


想像以上に柔らかい声色が耳に届いて、私は顔を上げた。

目の前の表情からは怒りの感情は読み取れない。
ひとまずほっと胸を撫で下ろして、軽く息を吐いた。


「白さん、ね。よろしく」


特に気を悪くした様子もなく微笑んだ狼谷くんに、私は拍子抜けしてしまう。

少なくともこんなに笑う人だとは思っていなかったし、もっと取っ付きにくいのかなと予想していた。

そうは言っても、内心彼が何を考えているのかは分からない。
これからは不用意に発言しないように気を付けよう、と気を引き締めたところで。


「白さんさぁ……俺のこと、苦手でしょ」

「え!?」


突然の爆弾投下に、為す術もなく素っ頓狂な声を上げてしまった。

心読まれたかと思った! いや、狼谷くん実はメンタリスト?

一人でしょうもない憶測を立ててから、慌てて言い募る。


「そ、そんなことないよ! とっても、全然、大丈夫!」


正直言うと、ちょっと――いやかなり苦手なタイプだけど。
そんなことを打ち明ける必要もないし、何より彼のご機嫌取りが最優先だ。


「そ? ……まあ、いいんだけど」

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