能ある狼は牙を隠す


そう言って小首を傾げた彼は、手始めに首筋へ唇を寄せる。
いつものように僅かな痛みが「印」と共に与えられて――何だ、これくらいなら、と油断していた時だった。


「ん……!?」


ぷつ、と何かが外れる感覚と、緩まった首元。彼が制服のリボンを取ってしまったらしい。


「えっ、え、待って、玄くんっ」

「ん? どうしたの」

「いや、あの、何でこんな……」


彼と目が合って、ひゅ、と喉が締まる。
それは捕食者の目で、捕まったら最後、満足いくまで離してはくれない。


「ねえ羊ちゃん、知ってる?」

「なに……?」

「この印、本当は一個じゃだめなんだよ。ちゃんと俺のって分かるように、いっぱいつけないとね」


彼の手がワイシャツの第一ボタンを外す。
鎖骨に舌を這わせた玄くんは、宣言通りそこに強く吸い付いた。


「いっ、」

「ん、ごめんね……痛かった?」


労うように、バードキスが顔中に降ってくる。それに少しほっとして体から力を抜くと、今度は耳朶を甘噛みされた。


「や、玄くん……! 耳、やだぁっ」

「嫌? でもこうやってここ舐めたら、羊ちゃんすーごい可愛い反応してくれるから……」

「ひ、ぅ、」

< 501 / 597 >

この作品をシェア

pagetop