能ある狼は牙を隠す
千変万化
「俺、バイト始めようと思うんだよね」
後日、女の子と話していた理由を、彼はそう説明した。
というのも、その子は一年生の頃同じクラスだったそうで。バイトをいくつも経験しているため、伝手があるかもしれないと話し込んでいたらしい。
「そうだったんだ……」
相槌を打って数秒。少々気になることが頭に浮かんで、私は正直に質問することにした。
「玄くん、何か欲しいものあるの?」
今までずっとバイトしていたのならまだしも、この時期に急に始めようだなんて珍しい。私はバイトの経験がないから、よく分からないけれど。
彼は思案顔で「んー」と顎に手を添える。視線だけこちらに投げて、小さく笑った。
「うん、ちょっとね。どうしても買いたいものがあって」
どうしても、か。きっと値が張るものなんだろう。腕時計とか、ブランド物の服とか? それともゲーム機?
聞こうか迷ったけれど、彼が言葉を濁した様子からして、深く突っ込まない方が良さそうだと判断した。
「そっか。頑張ってね!」
「ん。ありがと」
ぽふ、と彼の手が私の頭に乗る。
その温度が低くて、冷え性なんだなあ、と新しい発見をしたと同時、季節の移り変わりを実感した。