能ある狼は牙を隠す


彼が発した言葉の意味を咀嚼しようとして、首を傾げる。
玄くんは「分かってよ」とはにかむように付け加えて、私の耳元に唇を寄せた。


「大切な人を養うには、学歴も必要ってこと」

「えっ」

「ちゃんと伝わった?」


伝わったも何も。
ごく自然に紡がれた彼のビジョンに、遅れて頬が火照る。

必死に頷いて意思表示をすると、玄くんは「それなら良かった」と肩を揺らした。


「……あ、ごめん。俺、この後バイトの面接あるんだよね」


時間を確認した彼が言う。
いつもは教室に残ってスキンシップを取るのが暗黙の了解だったけれど、今日はそうもいかないらしい。

そうなんだ、と短く返した私に、彼は少し悪戯に口角を上げた。


「そんな顔しないで。今日は途中まで一緒のバス乗って行くから」

「えっ、ほんと……⁉」


思わず食い気味に反応してしまって、途端に恥ずかしくなる。これじゃあ寂しかったですと白状しているようなものだし、駄々っ子みたいだ。
玄くんだって、珍しいものを見るかのように目を見開いている。


「……羊ちゃん、最近可愛すぎじゃない?」

「な、何言ってるの……」

「いや嬉しいけどさ……死にそう。俺、寿命は全うしたいんだよ。もちろん羊ちゃんが死んだらすぐ追うけどね」


会話が物騒になり始めたので、とりあえず口を噤んだ。
その代わりと言ったらなんだけれど、隣を歩く彼の手を掴む。


「死ぬとか言わないで」

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