能ある狼は牙を隠す
六組となると、理系クラスだ。文系と理系ではまるっきり時間割が違うし、関わりもぐんと少なくなる。
初めまして、という挨拶に、初対面だという確証を得て胸を撫で下ろした。以前会ったのに忘れていたというわけではないようだ。
となると、彼女は「彼」の知り合いなんだろうか。
「……玄くんのこと、その……好き、なんですか?」
私と彼が付き合っているというのは、クラス内では周知の事実だけれど、他のクラス、他の学年には知らない人がいてもおかしくない。
彼は端正な顔立ちをしているし、勉強も運動も申し分なく、女の子に想いを寄せられる要素は十分にあった。彼女が玄くんを好きだと言っても、全く不思議ではないのだ。
ただ、彼女は私に「別れて欲しい」と言った。
つまり玄くんに彼女がいること、それが私だということを知った上で、こうして話しかけてきたというわけで。
「うん、好きだよ。好きっていうか、玄じゃないとだめなの」
淡々と述べた彼女は、そのまま続ける。
「多分、玄も私じゃないとだめだと思う。唯一の拠り所っていうか……」