能ある狼は牙を隠す


決まりきった事実を報告しているだけ。そんな口ぶりだった。

会話の往復は未だ一桁に過ぎないというのに、気が遠くなる。これはなかなかに骨が折れそうだ、と早期に見切りをつけた。


「ええと、細かいことは分かんないんですけど……」


何か勘違いをしているという線もある。そう思って、一応自身の見解を述べることにした。


「玄くんの気持ちを決めるのは玄くん本人だと思います。それに、私は彼と好きで付き合っているので……別れて欲しいと言われても正直嫌ですし、そういうこと言われるのは……ちょっと、気分良くないです」


うん、言った。ちゃんと言えた。
誠実に、かつ刺激しないよう言葉を選んだつもりだった。なるべく穏便に、お引き取り願おうと。


「うーんと、だから、別れて欲しいっていう話なんだよね。嫌とか嫌じゃないとかを聞いてるんじゃなくて」

「…………はい?」

「別れてくれないと困るんだってば。私も玄も、お互い切っても切れないっていうか。玄、あなたと付き合ってから全然相手してくれないんだよね」


この人は一体、何を。
まるで私の話を聞いていない。自分至上主義なのか、単純に要求を通したいだけなのか。


「相手してくれないって……そりゃあ、付き合っている人がいたらそうなりますよ」

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